いよいよ10月1日のTVオンエアが迫ったTVアニメ『ブルーピリオド』。演じる声優陣はキャラクターにどんな印象を抱いたのか、本作の見どころ、さらにアフレコ現場で原作者・山口つばさ先生と交わされた会話まで、メインキャストの3名にインタビュー!
矢口八虎役の峯田大夢さん、鮎川龍二役の花守ゆみりさん、高橋世田介役の山下大輝さんが、その魅力を語ってくれました。
誰もが「人間として成立している」キャラクターたち
──それぞれが演じる役柄は、どのようなキャラクターだと捉えましたか。
峯田
八虎くんは「インテリヤンキー」と言われる男の子で(笑)。どんなことも人並み以上にできるけれど、それに退屈を感じてもいる。それが1枚の絵に出合って、美術への気持ちに向かっていき、描くためにいろんな努力をする……どんな困難も乗り越えていく熱さを持つけれど、それを前面に出すわけではなく、葛藤してもがいています。
八虎は外面の良さに反して、内側で別の悩みを考えながら、周囲にいろんな刺激を受けて挑戦しています。僕自身も、共演者さんや演出の方々、監督も含め、いろんな人の姿を見て、刺激を受ける部分がたくさんあるので、そういうところは僕との共通点だと思います。
花守
演じ手として、ユカちゃん(鮎川龍二)は「自分の好きを貫ける子」なんですけれど、その貫くときに心の大切な部分を常に犠牲にしているようにも感じました。日本画を志して、自由に好きなものを信じ、生きているように見せながら、家族や性の在り方、環境的にも悩んで、自分の「好き」を貫けないところが出てくる……。
それでも、なんとか貫くことで、ユカちゃんは「得ているもの」と「失っているもの」があることを、常に感じながら私自身は演じさせていただきました。そういう強さも脆さも含めて、すごくかっこいいキャラクターだなって思います。
ヒロインという軸ともまた違いますよね。八虎を美術の世界に引きずり込んだ存在でもあるから、そういう意味では先導役。でも、その役目から離れたときには、己の弱い部分まで描かれるキャラクターですから。常に悩んでいる八虎と対照的に、見えないところに抱えたまま誰にも話せないのがユカちゃん。
──複雑な感情が駆け巡るキャラクターだと感じます。
花守
自分を相手の尺度で測られたくはないけれど、でも、わかってほしい。そういう究極の矛盾を抱えているけれど、演じ手としてはそれを大切にしてあげたいと感じていて。どちらの矛盾にもエネルギーを注げる芯のある子だから、会話の中にその矛盾点が見えたときに「すっごい人間くさい!」と感じてもらえるように、芝居を立てていきました。
山下
世田介は、不思議で、独特な空気感を醸し出していることが、セリフの端々でも感じられるとは思うんです。対応一つとっても、多くは語らずに本当に接するだけで、そのまま去っていくとか。「なぜ、こんな言動をするんだろう?」みたいに、「なぜ」と気になるキャラクターでもあって。
特に序盤は、考察力をかき立てられると思います。『ブルーピリオド』は八虎目線で物語が進んでいきますが、世田介は無くてはならない存在になっていく一人です。そして、世田介の中にも秘められた「何か」があることが浮き彫りにもなる。
でも、ほんとに序盤は「ねぇ、そんな強い言葉使って大丈夫?心配だよ?」と思う(笑)。
──「それだとみんな近寄りにくいよ」みたいな。
山下
そうそう。でも、そんな失敗をするようなところがあるだけ、目を引いてしまうキャラクターなんだ、という意識で演じていきました。いけ好かない印象から転じて、どんどん深みが出てくるんですよね。周りから見たら天才でも、本人の中には感情が渦巻いている。その「視点の切り替え」が『ブルーピリオド』って、すごくうまくて!
花守
「天才になるとき」と「人になるとき」と、視点の差がすごいですよね。
山下
うまいよね。キャラクターの主観的な脆さが、実は周りから見たら「強さ」だと映っていたりして。世田介も、それを感じさせる一人ではあります。
花守
天才肌の世田介くんに視点が変わったとき、あどけなさがワッと出てくる。家族の問題なんかも出てきて、私たちは彼の見ちゃいけない部分を見るというか(笑)。そういうヒヤッとする人間くささもあって。山口つばさ先生はどうやって視点変えをなさっているんだろうと、よく思います。
峯田
見せちゃいけない個人の物語を「あぁ、見ちゃった!」っていう面白さと、どこか後ろめたい気持ちと……(笑)。
花守
みんなが「人間として成立している」ことを、視聴者として否応なく見てしまう体験ですよね。
『ブルーピリオド』が描く、人生の“熱く、途方もない物語”
──ズバリ!『ブルーピリオド』の魅力を言い表すなら?
峯田
演じるうえで画家や美術について色々と調べたとき、この作品を表すのに近しい言葉と出合いました。ロートレックが残した「人間は醜い。されど人生は美しい」です。それぞれ人には見せられない悩みや葛藤といった「黒い部分」を抱え、結果的にそれを乗り越えた先にしか美しい未来は待っていない……というか。
でも、必ずしも「美しい未来」にたどり着けない人もいます。誰もが幸せになれるわけではないし、幸せの形もさまざまだけれど、『ブルーピリオド』を観たら「自分も何かを変えよう!」と決意できるきっかけになるんだろうな、と僕は思っています。
山下
みんなが感動したり、きれいだと思えたりする名画ってあるけど、そこにだって当然に見えてこない部分があるからね。その部分こそを『ブルーピリオド』は描いている。きれいなものを作るために汚いことをするし、影ながら努力も続けているからこそ、より一層の輝きがあるんだろうな、と。そこに一人ひとりの生き様も、人生も感じられる。
あとは、他者の心に何か刺さるものって、「好き」や「嫌い」を追求した先にあるんだろうなって、すごく思った。「嫌い」も突き詰めれば強くなれるんだなって(笑)。
花守
わかります!ユカちゃんはまさにそうだし、世田介くんにも刺さる言葉ですね。
山下
そういう触れていいかもわからない生々しさまで……読んでいくと、どきどきしてきますよね。
花守
私なりに『ブルーピリオド』の魅力をズバリ言うなら、未完成。
この物語は未完成で、ずっと未完成のままなんですよ。絵を描くこともそうだし、何かを追求することには終わりがない。でも、終わりがないことは、たぶん彼らの救いでもあるんだなって。一つの作品が出来上がった瞬間には納得できても、冷めてから眺めたり、他の作品に触れたりすると、「自分なんて全然まだまだ」と思う。それが一生続くんですよね。
ずっと自分と誰かを比べ続けて、なおかつ自分の「好き」や「完璧」を追求していく。そんな途方もない物語なんですよ……! それこそ絶望の果てなのか、自分なりの終着点なのかはわからないけれど、いつか筆を折るときが来るかもしれない。でも、「これが完璧だ!」という作品には一生かけてもたどり着けないであろう道のりの、その入り口を見ている気分にさせてくれるんです。
──『ブルーピリオド』では八虎が、まさにその道のりを進んでいく姿が描かれます。
花守
「世田介くんがすごい」「マキちゃんがやばい」って見ながら、ずっと自分が完成していないことを突きつけられますもんね。それでも八虎は描き続けてしまう。そういう人間のエゴや泥臭い部分が……私は好きなんですけど(笑)。
『ブルーピリオド』を通じて、自分の人生にもこれほど熱くなれるものがあるのかって、自分に聞いてみたくなるはず。逆に、今は無いからこそ強く欲するようになるかもしれない。そんなふうに、心をえぐる作品なんじゃないかなって、常に感じますね。
──「ここからみんな、修羅の道に入っていくのか……」と見送っているような。
花守
そうなんですよ! 美術や表現という終わりのない地獄に(笑)。でも、その地獄を楽しめる人間だけが、ここにはいると思うんです。みんな、魅力に取り憑かれてる。
山下
よく「沼にはまる」って表現しますけど、言い得て妙ですよね。
演技に影響を与えた、アフレコ現場のやり取り
──アフレコ現場には山口つばさ先生もいらっしゃったと聞きました。何か会話など交わされましたか?
峯田
「先生」って呼ばれるのが恥ずかしいから「山口さん」って呼んでください、と言われました(笑)。ここでは先生呼びしますが、やむなくリモートの時もはさみつつ、最終話までほぼ全て見に来てくれて心強かったです。接するときも、すごくフレンドリーで。
山下
そうそう。目線が近い雰囲気があって、話しやすかったよね。
花守
それは思いました!
山下
アフレコ現場だと、花守さんが先生とすごく話し合っていた印象があるなぁ。
花守
せっかく「生みの親」がいるから、ユカちゃんだけでなくて、みんなのことを聞いてみたくて。もちろん、特にユカちゃんのことは絶対に聞いたほうがいいと思っていたから、家庭環境や「本当の悩み」を具体的で明確に教えてもらったんです。特に家族の問題は、今のユカちゃんを形作った環境でもあるので。
原作では、それらをあえて描かないことで見せる魅力があると、読んでいるときにわかってはいたんですけど。でも演じるうえで、その設定があるなら全部聞いておこう!と。
──先ほどの山下さんの言葉を借りなら、表面からは「見えてこない部分」ですね。
花守
それって、私しか知らなくていいことじゃないですか。だから、なるべく周りに人が居てほしくないなぁと思って、先生と二人きりで(笑)。アフレコが終わった今だからこそ話せますけれど。
峯田
何か深く話してるなぁ、とは遠目で見ていて思ってました(笑)。
山下
そうそう。「あれで、花守さんは龍二になっていくんだろうな」って(笑)。
──今のお話にもありましたが、今回はみなさんが集って演じられる機会が多かったそうですね。それによって演じやすくなったなど、良さはありましたか?
峯田
めちゃくちゃありますね!
山下
基本的には掛け合いが多いメンバーに時間を振り分けてくださっていて。特に峯田くんの八虎は掛け合いが多いから、まず彼の声や芝居を聞いたうえでアプローチを変える、という影響はあったと思います。
峯田
全員で収録することが本当に難しい状況の中で、ちゃんと八虎がみなさんと掛け合いができるようにスタッフの方々が調整してくださったことは、本当にありがたかったです。僕自身もみんなと一緒だからこそ生まれる会話感や距離感がありました。もし、その機会がなければ、放送される八虎の表情や声色にはきっとならなかったはずです。
あとは、みなさんが演じているとき、ちょっと横目で表情を見たりとか……。
花守
えっ、表情見てたの?
峯田
たまに、ですよ!
山下
視線感じたな(笑)。
花守
えー、怖い(笑)。
峯田
いや!でも!なるべく動かないようには気をつけてましたよ!やっぱり体を全部使って演じなきゃと思って。みなさんの顔を見るのも、その一環で……。
山下
ちゃんと画面も見ないと(笑)。
花守
そうだそうだー!画面を見ろー!
峯田
だから忙しかったです、はい(笑)。
──峯田さんは目で盗むところもあったようですが、他にも演技への影響はありましたか?
花守
「八虎よ、絶望しろ。私に構うな」って日がありましたね。その日の芝居が、もう縁を切ってほしいくらいの勢いで話すシーンだったから。
峯田
花守さんの様子がいつもと違った日ですよ……挨拶したけれど聞こえなかったのか、聞こえないふりなのか、僕の勝手でわからないけれど、花守さんが応えてくれず……(笑)
花守
それ、勘違いだからね! 私はちゃんと挨拶を返しました(笑)。
でも、話しかけてほしくないなぁ、って思っていたのは本当です。峯田くんはお話上手だから、ここで気持ちが和んでしまうと芝居のときに容赦が出るな、と。
峯田
そう!それを何か感じ取って、きっと僕の挨拶の声もあまりに小さく……。
山下
楽しいな(笑)。
花守
楽しくないよ!(笑)
──わだかまりが溶けてよかったです。
山下
それでいうと、世田介だけは影響が少なかったかも。世田介は自分の世界を持っていて、そこへいかに「自分というもの」を存在し続けられるかを試みている子なんだと思っていて。基本的に言葉も相手には掛けず、自分の中だけで話している感じだから、僕としては最初からやることは決まっていたかな。テンプレを守ることで心の平穏を保つ子だから。
──面白いですね。影響を受ける八虎と、それをあえてしない世田介と。
山下
そこからは絶対にブレたらいけないと思っていました。でも、たまにブレるときがあって、それは自分のフィールドに突然入ってきてしまった「異物」をどうにか取り除きたいとき。歪みを戻そうとして、あがいているんですよ。
花守
みんな、距離感を精密に生成して作っていったんですねぇ。
峯田
本当にお二人とも緻密な役者さんでした。
──そういったみなさんが声を演じられて、『ブルーピリオド』のキャラクターが人間として立ち上がっていったのだと感じます。放送が今から楽しみです!
(取材・文 長谷川賢人)